アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎
真菌に対するアレルギー反応により生じる、アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎。
易再発性の疾患であり、長期の経過観察が必要です。
副鼻腔真菌症の分類
副鼻腔真菌症は侵襲性か非侵襲性かに分類され、後者はさらに慢性非侵襲性(寄生型)とアレルギー性とに分けられます(表)。
これらの分類は患者さんの免疫状態と真菌の役割によって異なることが分かっています。
表:副鼻腔真菌症の分類(Bent & Kuhnの分類改)
分類 | 経過 | 免疫状態 | 真菌の役割 | 治療 | |
---|---|---|---|---|---|
侵 襲 性 |
急性侵襲性 (劇症型) |
4週以内 | 免疫不全~ 免疫低下 |
病原菌 | 根治的摘出、洗浄、 抗真菌剤全身投与 |
亜急性侵襲性 | 4~12週 | ||||
慢性侵襲性 | 12週以上 | ||||
非 侵 襲 性 |
慢性非侵襲性 (寄生型) |
12週以上 | 免疫正常 | 真菌塊 Fungal ball |
除去術、換気改善 |
アレルギー性 真菌性鼻副鼻腔炎 (AFRS) |
12週以上 | 免疫正常 アトピー |
アレルゲン | 除去術、換気改善、ステロイド、 抗アレルギー薬、 抗真菌薬 |
侵襲性は免疫状態が不全から低下し、真菌は病原菌として体内に侵入します。
慢性非侵襲性の免疫状態は正常で、真菌は寄生菌として副鼻腔内に真菌塊を形成します。
アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎の免疫は正常範囲ですがアレルギー体質を有し、寄生した真菌はアレルゲンとして働きます。花粉やダニなどのアレルゲンとは異なり、副鼻腔内でも増殖しそのアレルゲン量が増加することが問題点の1つです。
アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎(AFRS)
真菌に対するアレルギー反応により生じるアレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎は、難治性の副鼻腔炎の1つとして認識されています1, 2。
アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎は真菌が寄生(感染)増殖した副鼻腔を中心に発症し、副鼻腔内や粘膜内に著明に活性化好酸球が浸潤します(図1)。
私たちの経験ではアレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎の7割は片側性に発症し、好酸球性副鼻腔炎はほとんどが両側性です(図2)。
両側性のアレルギー性真菌性副鼻腔炎は好酸球性副鼻腔炎との鑑別が非常に難しくなります。両者とも手術を行ってもポリープや好酸球性ムチンが再発しやすく、臨床的にも難治性の経過をたどることが多い疾患です3。
有病率は地域の気候の違いにより存在する真菌種や菌量が異なるため大きく異なります。日本での有病率は手術に至った慢性副鼻腔炎症例の4~8%程度であることを以前私たちは報告しています1,2。
決して稀な病態ではなく、手術をしても再発を繰り返す、いわゆる難治性副鼻腔炎症例の中には高率に存在すると考えられています。
図1:好酸球性ムチンと真菌
1:副鼻腔内のムチンと周囲ポリープ
2:周囲ポリープ中には好酸球浸潤が著明
3:好酸球性ムチン(黒いポツポツが好酸球)
4:好酸球性ムチン中の真菌
図2:アレルギー性真菌性副鼻腔炎の画像所見
1、2:CT
3、4:MRI、右上顎洞片側性に発症したアレルギー性真菌性副鼻腔炎
治療
治療の中心は内視鏡下鼻・副鼻腔手術による病変の除去と形態の改善、術後治療による再発の予防です。
内視鏡下鼻・副鼻腔手術により罹患副鼻腔を開放し、真菌を含んだ好酸球性ムチン(抗原除去)とポリープの除去を行います。換気の改善と同時に術後容易に観察や処置、洗浄(抗真菌剤による)が可能になります。これら外科的処置に加えてステロイド経口投与と噴霧ステロイド点鼻の併用が術後の再発率を有意に減少させます。
基本的な術後の治療方針は好酸球性副鼻腔炎と同じであり、自宅にて生食による洗浄と噴霧点鼻ステロイド、抗ロイコトリエン薬の投与を行います。アレルギー性真菌性副鼻腔炎の場合はこれらに第2世代抗ヒスタミン薬を併用します。
また術後局所処置による何らかの真菌(抗原)除去が必要で、ヘパリン生食や抗真菌剤による局所洗浄が効果的な場合もあります。
アレルギー性真菌性副鼻腔炎は易再発性の疾患であり、長期の経過観察が必要です2。
文献
- 1)松脇由典, 柳清, 森山寛, 他. Allergic Fungal Sinusitisの検討. 日本耳鼻咽喉科学会会報 2002; 105:1157-65.
- 2)松脇由典. 【注目される好酸球関連疾患】 アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎-Allergic fungal rhinosinusitis(AFRS). 臨床免疫・アレルギー科 2010; 54:436-44.
- 3)Matsuwaki Y, Ookushi T, Asaka D, et al. Chronic rhinosinusitis: risk factors for the recurrence of chronic rhinosinusitis based on 5-year follow-up after endoscopic sinus surgery. Int Arch Allergy Immunol 2008; 146 Suppl 1:77-81.
- 4)松脇由典. 【アレルギー疾患の病理像 その共通点と相違点】 好酸球性副鼻腔炎・アレルギー性真菌性副鼻腔炎の病理像. アレルギー・免疫 2010; 17:822-31.
- 5)Meltzer EO, Hamilos DL, Hadley JA, et al. Rhinosinusitis: developing guidance for clinical trials. J Allergy Clin Immunol 2006; 118:S17-61.